FXにおいて「資金管理」は、極めて重要な要素です。
どれだけ優れた分析スキルを持っていても、資金の扱い方を誤れば、あっという間に市場から退場となってしまいます。
このパートでは、「なぜ資金管理が必要なのか?」から始まり、「実践で役立つ資金管理法」や「注意点」について詳しく解説していきます。
資金管理とは?
資金管理とは、資金を効率よく守りながら増やすための戦略であり、主に「リスクコントロール」を中心に構成されます。
- 狙う利益額はいくらにするか?
- 許容できる損失額はいくらか?
- ロット・レバレッジはどれくらいにするのか?
- 連敗しても再起できる資金配分か?
- 感情に左右されず、一定のルールで運用できるか?
上記のような問いへの答えを明確にしておくことが、長く相場に居続ける鍵になります。
1度のトレードにおける損失許容額(資金率)
前述したように、資金管理の中心には「リスクコントロール」があります。
では、実際にどうやってリスクをコントロールしていけばよいのでしょうか?
結論から言えば、「1度のトレードにおける損失許容額」をあらかじめ決めておくことに尽きます。
「1度のトレードにおける損失許容額」の適正値とは?
「1度のトレードにおける損失許容額」は、一般的に総資金の1〜2%以内に抑えることが推奨されています。
例えば、総資金が100万円ならば、1度のトレードにおける損失許容額は1万円~2万円になります。
このルールを守ることで、たとえ数回連続で負けたとしても、資金の大部分を残すことができ、次のチャンスに備えることができます。
ですが、もし1度の損失額が大きくなり過ぎてしまった場合、その後は資金の制約から同じロットサイズでエントリーできなくなり、結果として元本の回復が難しくなってしまいます。
損失割合 | 元本回復に必要な利益率 |
10% | 11% |
20% | 25% |
30% | 43% |
40% | 67% |
50% | 100% |
60% | 150% |
70% | 233% |
80% | 400% |
90% | 900% |
「1度のトレードにおける損失許容額」をあらかじめ決め、それをしっかりと守ることが、継続的にトレードを続けるための第一歩となります。
「1度のトレードにおける損失額」の計算方法
「1度のトレードにおける損失額」の計算方法は、以下の通りです。
保有したポジションのサイズ × 損切り幅 |
例えばドル円の場合、2万通貨を保有している時に損切り注文までの値幅が100pips(1pips=1銭)離れている場合、損失額は2万円になります。
ポジションサイズを小さくして1万通貨とすると、同じ100pipsの損切り幅でも損失額は1万円になります。
当然ポジションサイズを小さくすると、損失は抑えられます。
一方で、損切り幅を狭くすることでも損失を抑えることができます。
上記の例でいえば、2万通貨保有の場合、損切り幅を50pipsに設定すれば、損失額は1万円に抑えられます。
「ポジションサイズ」と「損切り幅」のバランスで損失額をコントロールしよう
前述の通り「ポジションサイズの調整」と「損切り幅の調整」の2つで、「1度のトレードにおける損失額」をコントロールできますが、どちらの方がコントロールしやすいでしょうか?
トレード戦略にもよりますが、「損切り幅」は基本的にチャート分析をしたうえで、戦略に合った適切なポイントに損切りラインを設定し、エントリーポイントからその損切りラインまでの距離によって決まります。
そのため、「損切り幅の調整」で「1度のトレードにおける損失額」をコントロールしようとすると、チャート分析上適切な損切りラインに到達する前に損切りを行わなければならない可能性があり、トレード戦略上いい方法とはいえません。

これに対し「ポジションサイズの調整」は、チャート分析で導き出した損切りラインがそのまま使え、トレード戦略を崩すことなく、「1度のトレードにおける損失額」をコントロールできるというメリットがあります。

上記内容から、「ポジションサイズの調整」の方が「1度のトレードにおける損失額」のコントロールはしやすいといえます。
ですが、このようにポジションサイズを落として、損切り幅を広げた場合、それ以上の利益幅を確保しなければ、リスクリワードが悪化してしまいます。
その場合、勝率を高めなければならないというデメリットもあります。(※勝率とリスクリワードの詳細は後述します)
では、ポジションサイズを落とさずにトレードしたい場合はどうすればいいでしょうか?
答えは、「損切り幅を狭くできる局面を探してトレードする」ことです。
例えば、上記例のように直近高値上抜けを根拠にロングエントリーする場合、2万通貨保有でポジションサイズは落とさないので、エントリーポイントからチャート分析上の損切りライン(直近安値下抜け)までの距離が50pips以内になる局面のみでしかトレードしないようにすればいいのです。(下図参照)
こうすることで、トレード機会は減りますが(上記例のような局面ではトレードを見送る)、ポジションサイズを落とさずにトレードをすることができます。

別のパターンも見てみましょう。
下図は上昇トレンド中にレンジが発生したパターンです。
この場合、レンジ上抜けでロングエントリーする方法も考えられますが、2万通貨保有で損切り幅を-50pips以内にしたいので、別のエントリーポイントを探します。
案の一つとして、レンジ下限の何度も止められている価格帯でロングエントリーする方法があります。
こうすることでエントリーポイントと損切りライン(レンジ下抜け)が近く、損切り幅を-50pips以内にすることができます。

このように、「1度のトレードにおける損失額」を損失許容額の範囲に収められるよう「ポジションサイズと損切り幅のバランス」を考えることで、資金管理をトレード戦略に落とし込むことができます。
ドローダウンも意識しよう
「ドローダウン」とは、保有資産の最大値からの下落率を意味します。

例えば上図のように、トレードをしていった結果、保有資産が最大値の200万円を記録した後、100万円にまで資産が落ち込んだとします。
この場合のドローダウンは50%になります。
ドローダウンは、トレード手法を検証する際にも重要な概念になります。
自分のトレード手法のドローダウンがどれくらいかを把握していれば、安心してトレードを続けることができます。
また、あまりにも大きなドローダウンがあるトレード手法は、メンタル面に大きな負荷が掛かったり、資金面の制約からロットサイズを落とさなけれならず、元あった保有資産の最大値までの回復が難しくなります。
ドローダウンで注目すべき値
ドローダウンについて考えるとき、以下の4つの値について抑えておく必要があります。
最大ドローダウン
「最大ドローダウン」とは、ドローダウンの中で、最も下落幅(額)が大きいものを指します。
トレードの資産曲線では、複数回にわたってドローダウンが発生します。

例えば、上図の資産曲線では2回のドローダウンが発生しています。
ドローダウン①は、-60万円(40%)で、ドローダウン②は、-70万円(35%)です。
最大ドローダウンはドローダウンの額が大きい方を指すので、上図の最大ドローダウンはドローダウン②となります。
固定ロットなどの単利による資金管理を行っている場合は、最大ドローダウンに注目することが多いです。
相対ドローダウン
最大ドローダウンが金額単位でのドローダウンであるのに対して、「相対ドローダウン」とは%単位のドローダウンを指し、多くの場合最大のものについていいます。
絶対ドローダウン
「絶対ドローダウン」とは、運用開始時の初期投資額からどれだけ資産が減少したかを金額で示したものです。
例えば、100万円で運用を開始し、途中で70万円まで減った場合、絶対ドローダウンは30万円(30%)となります。
ドローダウン期間
「ドローダウン期間」とは、ドローダウンから抜け出すまでにかかった時間のことを指します。

上図の資産曲線では、最大値の150万円を再び更新するのに8日かかっているので、ドローダウン期間は8日です。
ドローダウン期間が長期にわたる程、メンタル面に与えるダメージは大きく、トレード手法を守り続けることは難しくなります。
ドローダウンの許容値
一般的にドローダウンの許容値は30%~40%といわれています。
ですが、資金力やメンタルは個人差があるため、自分の許容できる数値を採用すべきです。
また前述した通り、あまりにも大きなドローダウンがある場合、メンタル面に大きな負荷が掛かったり、資金面の制約などの理由でドローダウンからの回復が難しくなります。
ドローダウンを抑える方法
トレード手法のドローダウンはなるべく小さいに越したことはありません。
ここでは、1度のトレードにおける損失許容額(資金率)を小さくして、ドローダウンを抑える方法を紹介します。
当然のことながら、1度のトレードにおける損失許容額を小さくすれば、発生するドローダウンもそれだけ小さくなります。
連敗数 | 資金率2% | 資金率10% |
0 | 1,000,000 | 1,000,000 |
1 | 980,000 | 900,000 |
2 | 960,400 | 810,000 |
3 | 941,192 | 729,000 |
4 | 922,369 | 656,100 |
5 | 903,922 | 590,490 |
6 | 885,844 ドローダウン率:11% | 531,411 ドローダウン率:47% |
上図は、資金率2%と資金率10%で連敗時のドローダウンを比較した表になりますが、小さくリスクを取っている資金率2%の手法のほうが、ドローダウンを抑えることができています。
ドローダウンまとめ
ドローダウンについて解説してきましたが、トレード手法にドローダウンの概念を落とし込むには、以下の3つを意識することが大切です。
- 「ドローダウン」とは、保有資産の最大値からの下落率を示したもの。
- 一般的にドローダウンの許容値は30%~40%といわれているが、最終的には自分の許容できる数値を採用すべき。
- ドローダウンを抑えたい場合は、1度のトレードにおける損失許容額(資金率)を小さくする。
「勝率×リスクリワードレシオ」のバランスが勝利のカギ
トレードで継続的に利益を上げるには、「勝率」と「リスクリワードレシオ」のバランスが重要です。
勝率とは?
FXにおける「勝率」とは、トレードした回数のうち、どれだけの割合で利益が出たかを表す指標で以下の計算式でもとめることができます。
勝率(%)= 勝ったトレードの回数 ÷ 全トレード数 × 100 |
例えば、10回トレードして6回勝てば、勝率は60%となります。
リスクリワードレシオとは?
「リスクリワードレシオ」とは、トレードにおける「リスク=損失」と「リワード=報酬(利益)」の比率のことをいい、以下の計算式でもとめることができます。
リスクリワードレシオ = 勝ちトレードの平均利益 ÷ 負けトレードの平均損失 ※ 勝ちトレードの平均利益 = 勝ちトレードの総利益 ÷ 勝ちトレードの回数 ※ 負けトレードの平均損失 = 負けトレードの総損失 ÷ 負けトレードの回数 |
例えば、勝ちトレードの平均利益が100pips、負けトレードの平均損失が50pipsだった場合、リスクリワードレシオは2になります。
「勝率×リスクリワードレシオ」のバランスが大事
FXでは勝率が高ければそれだけで勝てるというわけではありません。
リスクリワードレシオにも気を配る必要があります。
例を挙げてみてみましょう。
【例①】
10回トレードして、9勝1敗でも、9勝の合計利益が90pips、1敗の損失が100pipsだった場合、トータルで負けてしまします。
(勝率:90%、平均利益:10pips、平均損失:100pips、リスクリワードレシオ:0.1)
【例②】
10回トレードして、1敗9勝でも、1勝の利益が100pips、9敗の合計損失が90pipsだった場合、トータルで勝つことができます。
(勝率:10%、平均利益:100pips、平均損失:10pips、リスクリワードレシオ:10)
例① 例②の結果からもわかるように、勝率とリスクリワードレシオのバランスが大事ということになります。
下表は、勝率とリスクリワードレシオの関係性を表したものになります。
リスクリワードレシオ | ||||||||
0 | 0.3 | 0.5 | 1 | 1.5 | 2 | 3 | ||
勝率 | 25% | -75% | -68% | -63% | -50% | -38% | -25% | 0% |
30% | -70% | -61% | -55% | -40% | -25% | -10% | 20% | |
33% | -67% | -57% | -50% | -33% | -17% | 0% | 33% | |
40% | -60% | -48% | -40% | -20% | 0% | 20% | 60% | |
50% | -50% | -35% | -25% | 0% | 25% | 50% | 100% | |
60% | -40% | -22% | -10% | 20% | 50% | 80% | 140% | |
67% | -33% | -13% | 0% | 33% | 67% | 100% | 167% | |
70% | -30% | -9% | 5% | 40% | 75% | 110% | 180% | |
77% | -23% | 0% | 15% | 54% | 92% | 131% | 208% |
勝率とリスクリワードレシオから「期待値」を算出しよう
「期待値」とは、1トレード当たりに期待できる利益のことで、勝率とリスクリワードレシオから求めることができます。
期待値 =( 勝率 × リスクリワードレシオ )-( 負け率 × 1 ) |
この期待値が、プラスの場合は勝てる手法であり、反対にマイナスの場合は負ける手法ということができます。
先程の例① 例②の期待値を算出してみましょう。
【例①の期待値】
勝率:90%、リスクリワードレシオ:0.1
(0.9 × 0.1)-(0.1 × 1)= -0.01
期待値は、-0.01でマイナスなっており、負ける手法だということができます。
【例②の期待値】
勝率:10%、リスクリワードレシオ:10
(0.1 × 10)-(0.9 × 1)= 0.1
期待値は、0.1でプラスになっており、勝てる手法だということができます。
トレードにおいては、期待値がプラスになるような戦略を立てましょう。
「勝率×リスクリワードレシオ」はメンタルも大事
トレードにおいて、「勝率×リスクリワードレシオ」のバランスが重要であることはすでに説明しましたが、これを継続的に実践するためにはメンタル面も非常に重要になります。
例えば、先程の【例①】1勝9敗(勝率:10%、リスクリワードレシオ:10)の場合でみてみましょう。
このように、リスクリワードレシオが高いトレード手法は、勝率が低くなりやすい傾向にあります。
連敗が続き損失が膨らむと不安になり、一度の勝ちで損失分を取り戻して利益をのせればいいとわかっていても、少しでも損失を補填したいという心理が働き、利益を伸ばせずに利食いしてしまう可能性が高くなります。
もし利益を伸ばせたとしても、メンタル面に非常に大きな負荷が掛かり、こういったトレードを継続することは難しいと思われます。
では逆に、先程の【例②】9勝1敗(勝率90%、リスクリワードレシオ:0.1)の場合をみてみましょう。
このような勝率が高いトレード手法は、リスクリワードレシオが低くなりやすい傾向があります。
連勝でコツコツと利益を積み上げても、たった一度の負けですべての利益を吐き出し、さらに損失に傾いてしまった場合、メンタル面で非常に大きなダメージを受けることになります(一般的にコツコツドカンといわれる負けパターンです)。
以上のことからもわかるように、勝率とリスクリワードレシオのバランスが重要なのはもちろんのこと、継続できるだけのメンタル面への配慮も、資金管理の一環ということができます。
実践での活用方法
「勝率×リスクリワードレシオ」の考え方を実践で活用するためには、つねに以下の手順を意識することが重要です。
- エントリー前に、エントリー・利食い・損切りの位置をチャートで確認する。
- 確認の結果、リスクリワードレシオがどのくらいになるのかを計算する。
- 計算したリスクリワードレシオの場合、トータルで勝つためにはどのくらいの勝率が必要になるのかを考える。
- 「勝率×リスクリワードレシオ」のバランスを考慮して、実際にトレードを行うか、見送るのかを決める。
こうした一連のプロセスをエントリー前に徹底することで、勝率とリスクリワードレシオのバランスに基づいた、根拠のあるトレードが実現できます。
感情に流されず、根拠あるトレードルールに基づいた冷静な判断を積み重ねることが、資金を守り、トータルで勝つための基本となります。
ナンピンのやり方と注意点
トレードをしているとエントリーした方向とは逆に相場が動いてしまうことは多々あると思います。
そうした含み損の状況で行う手法の一つに「ナンピン」があります。
ここからは、そんな「ナンピン」について詳しく解説していきたいと思います。
ナンピンとは?
ナンピンとは、ポジションが含み損の状態になったときに、同じ方向に追加エントリーする手法です。
平均取得価格を下げる効果があり、損益分岐点が引き下がるため、相場が予想通りの動きに戻った際には、含み損が解消されやすくなります。
また、ポジション数が増えているため、含み損の解消後は利益が大きくなることが期待できます。
ですが、相場が逆行し続ける場合は、含み損が拡大してしまうリスクがあります。
「損失回避のナンピン」と「同一戦略内の分割エントリー」を区別しよう
ナンピンに対する考え方は様々で、これが唯一の正解というものがあるわけではありません。
そのため、以下で紹介するナンピンに関する内容は、あくまで当サイト独自の視点によるものであることを、あらかじめご理解ください。
当サイトでは、含み損が発生した際、同方向に追加エントリーしていく手法を2種類に分ける必要があると考えています。
それが、「損失回避のナンピン」と「同一戦略内の分割エントリー」の2つです。
「同一戦略内の分割エントリー」とは?
「同一戦略内の分割エントリー」とは、含み損発生時、損失回避のために追加エントリーするのではなく、戦略として計画的に分割エントリーしていくことをいいます。
例えば、下図のように上昇トレンド発生中、押し目でロングポジションを建てたいと考えている場合、どこまで押し目による一時的下落があるのかわからないため、少しずつ分割でエントリーしていくという方法が考えられます。
この場合、上昇トレンドから下降トレンドに転換したと考えられるポイントで必ず損切りを行うため、損失回避のために次々と追加エントリーしていくことはなく、上昇トレンド中の押し目買いという「同一戦略内の分割エントリー」というふうに考えることができます。

別のパターンもみてみましょう。
下図は、何度も止められていたサポートラインを下抜け、オーバーシュートが発生した後のリバウンド狙いのロングエントリーを考えている局面です。
この場合、オーバーシュートによる下落がどこまで行くのかわからないため、プライスアクションを見ながら分割エントリーしていく方法は有効と考えられます。
この手法を行う場合は、「目立ったリバウンドが発生しなかった時に、事前に決めておいた損失額で損切り」を行ったり、リバウンドが発生したとしても、状況によりいくつかの対応が求められます。
【リバウンド後の対応①】
平均取得価格以上にリバウンドによる上昇が発生し、利食いする。
【リバウンド後の対応②】
リバウンドは発生したが、平均取得価格以上には上昇せず、見切りをつけて損切りをする。(この場合の損切り判断は、メンタル面も含め、何かしらの根拠を持っていないと非常に難しい。例として、プライスアクションを見て判断する、もしくはフィボナッチリトレースメントを引いて戻りの目途を判断するなど。)
【リバウンド後の対応③】
リバウンド発生時に利食い・損切りをしそこなって、リバウンド発生前の安値下抜けで、すべてのポジションを損切りする。

以上のように、いくつもの対応が求められるため、事前にしっかりシミュレーションしておく必要があります。
このようなトレード手法も、オーバーシュート後のリバウンド狙いという「同一戦略内の分割エントリー」と考えることができます。
「損失回避のナンピン」とは?
「損失回避のナンピン」とは、戦略的に分割エントリーするわけではなく、損失回避を主な目的として、含み損発生時に追加エントリーしていくことをいいます。
例えば下図のように、上昇トレンド中にレンジが発生した局面で、価格がレンジの上限を上抜け、それを根拠に順張りの「ロングエントリー」をしたとします(時間軸はスキャルピング)。
【ナンピン買い①】
その後価格が下落し、レンジ上限に落ちてきたところで逆張りの押し目買いナンピンを行います。
【ナンピン買い②】
さらに価格が下落し、何度も下支えされているレンジ下限で逆張りの押し目買いナンピンを行います。
【ナンピン買い③】
価格がレンジ下限も下抜けし、勢いよく下落していく局面で、リバウンド狙いの逆張りの買いナンピンを行います。
【ナンピン買い④】
さらに下落が続き、2度目のリバウンド狙いの逆張り買いナンピンを行います。

以上のようなナンピン買いを繰り返すことが「損失回避のナンピン」と考えることができます。
【理由①】
レンジ上限上抜けで「順張りのロングエントリー」をしているのにも関わらず、ナンピン①~④は全て逆張りのポイントでナンピン買いを行っており、順張りから逆張りに変わっている時点で「同一戦略内の分割エントリー」とはいえない。
【理由②】
スキャルピングの時間軸でトレードを始めているので、利益が乗った場合、小さい利益幅で素早く利食いを行う可能性が高い。
その反面、含み損が発生している局面では、ナンピン買いを繰り返しているうちに、「損切り幅」も拡大していき、「時間軸」もスキャルピングからデイトレード以上になっている。
そもそも「時間軸」が変わっている時点で「同一戦略内の分割エントリー」とはいえない。
このような自分の都合に合わせた時間軸の変更は、資金管理の崩壊につながる可能性があり非常に危険です。
以上の理由から、このようなトレードは「損失回避のナンピン」ということができます。
いくつかの例で見てきたように、「損失回避のナンピン」と「同一戦略内の分割エントリー」は一見似ていても、本質的にはまったく異なるアプローチであることを理解しておくことが重要です。
ナンピンまとめ
ナンピンは、ポジションが含み損の状態になったときに、同じ方向に追加エントリーする手法ですが、前述したように「損失回避のナンピン」と「同一戦略内の分割エントリー」を明確に分けて理解することが重要です。
特に「損失回避のナンピン」は安易に行えば、資金管理の崩壊を招き、市場から退場することになるでしょう。
基本として、「損失回避のナンピン」に頼らないトレード戦略を立てることをおすすめします。
ピラミッティングのやり方と注意点
トレード中含み益が発生している局面で行う手法の一つに「ピラミッティング」があります。
ここからは、「ピラミッティング」について詳しく解説していきたいと思います。
ピラミッティングとは?
ピラミッティングとは、保有ポジションの含み益が増えていくにつれて徐々にポジションを追加していくトレード手法です。
基本的には、トレンド相場においてその流れに沿ってポジションを追加していくのが、ピラミッティングの基本的な考え方です。
この手法は、段階的にポジションを積み増していくスタイルのため、相場が想定通りに動けば大きな利益が期待できます。
しかし、エントリーの判断を誤ると損失も拡大しやすいため、やや上級者向けの戦略といえます。
ピラミッティングの種類
ピラミッディングには大きく3つのタイプがあり、それぞれ特徴や手法が異なります。
順ピラミッティング(スケールダウンピラミッティング)

順ピラミッティング(スケールダウンピラミッティング)は、ポジションを追加する際に段階的にロット数を減らしてい取引手法です。
順ピラミッティングは、3種類あるピラミッティング手法の中でも最も基本的なスタイルであり、トレンド発生時に初回ポジションを取った後、トレンドが継続すると判断した場合に、ロット数を徐々に減らしながら追加エントリーしていきます。
順ピラミッティングのメリットは、最初に保有したポジションで大きな利益を狙えるうえに、追加したポジションのリスクを抑えやすい点にあります。
逆ピラミッティング

逆ピラミッティングとは、順ピラミッティングとは反対に、買い増すロットを徐々に増やしていく取引手法です。
最初に保有するポジションを小さくすることで、相場が思惑通りに動くかを見極めながらポジションを追加していける点が、メリットといえます。
ただし、この手法ではトレンドの後半になってから多くのポジションを持つことになるため、順ピラミッティングよりもリスクが高くなる傾向があります。
長方形ピラミッティング(イコールポジションピラミッティング)

長方形ピラミッティング(イコールポジションピラミッティング)は、順ピラミッティングと逆ピラミッティングの中間に位置する手法で、最初に建てたポジションと同じロット数を追加していく取引方法です。
この手法では、順ピラミッティングに比べてより高い利益を期待できる一方で、逆ピラミッティングよりもトレンドの反転による損失リスクを抑えながら取引を進めることが可能です。
ピラミッティングのメリット・デメリット
ピラミッティングは、成功すれば大きな利益を狙える一方で、失敗した場合には損失が膨らみやすいというリスクも伴います。
そのため、この手法を活用するには、メリットとデメリットの両面を正しく理解しておくことが重要です。
【メリット】
- 成功すれば資金を一気に増やせる
上手くトレンドに乗れた場合、短期間で資金を一気に増やすことができます。 - 含み益を担保にポジションを持てるため心理的に楽
含み益を見たながら、それを担保に新規ポジションを持てるため心理的に楽といえます。 - リスクを分散させられる
一度にまとめてエントリーせずに様子を見ながらエントリーしていくので、リスクを分散することができます。
【デメリット】
- 失敗した際に大きな損失が出る
ピラミッティングは、保有ポジションが大きくなっていくため、失敗した際の損失は大きくなります。 - レンジ相場では機能しない
ピラミッティングは、トレンドに乗って保有ポジションを増やしていく手法なので、レンジ相場では機能しません。 - 資金管理が難しい
ピラミッティングは、複数回に分けてポジションを保有していくことになるので、どのタイミングでどのくらいのロットのポジションを建てるかなど、考えることも多く、資金管理の難易度は高いといえます。
ピラミッティングとナンピンの違い
ピラミッティングとナンピンは、どちらもポジションを追加していく手法ですが、その目的や使い方、リスクの性質は大きく異なります。
効果的にトレードを行うためには、両者の違いを正しく把握しておくことが重要です。
以下の表は、ピラミッティングとナンピンの主な違いを表したものです。
ピラミッティング | ナンピン | |
意図・目的 | 含み益を拡大し、トレンドに乗って利益を伸ばす。 | 含み損を解消するために平均取得価格を下げる。 |
追加のタイミング | 含み益が出ている状態でポジションを増やす。 | 含み損が出ている状態でポジションを増やす。 |
主なメリット | 成功時、大きな利益を得られる。 | 成功すれば、含み損を解消でき、含み損解消後もポジションを保有していれば、利益が大きくなることもある。 |
主なデメリット | 失敗時の損失が大きい。 | 失敗時の損失が大きい。 |
ピラミッティングのやり方
ピラミッティングを実行していくために、エントリー・積み増し・利食い・損切りの方法をみていきましょう。
エントリー
ピラミッティングのエントリーは以下の手順で行いましょう。
- トレンド相場を確認する
ピラミッティングは、トレンド相場において有効なトレード手法です。
そのため、エントリー前には現在の相場がトレンド相場かどうかを必ず見極める必要があります。
分析の結果、もし相場がレンジ状態であると判断された場合は、ピラミッティングを使ったエントリーは控えるべきです。 - トレンド方向へエントリーする
具体的には、テクニカル手法などを使い、トレンド発生初期やトレンド中の押し目・戻りなどのタイミングでトレンド方向にエントリーしていきましょう。
その際には、損切りポイントの設定も忘れずに行うことが重要です。
積み増し
ポジションの積み増しは、テクニカル手法なども用い、以下のような状況だと判断したときに行いましょう。
- トレンド中の押し目・戻りのタイミング
上昇トレンド中の一時的な下落である押し目、下降トレンド中の一時的な上昇である戻りはポジション積み増しタイミングとなります。 - 直近高値・安値ブレイクのタイミング(トレンド方向へブレイク)
直近高値・安値のトレンド方向へのブレイクは、トレンド継続のシグナルとされ、ポジション積み増しタイミングとなります。 - トレンド転換まで積み増しを繰り返す
トレンドが転換したと判断されるまでは、上記のようなタイミングでポジションの積み増しを繰り返していきます。
トレンド転換の判断はさまざまですが、例として、上昇トレンド中に直近高値・安値を切り下げた場合や下降トレンド中に直近高値・安値を切り上げた場合などがあります。
利食い
ピラミッティングの利食いは、以下のタイミングで行いましょう。
- トレンド転換が起きたと判断した場合
トレンド転換の判断はさまざまですが、上昇トレンド中に直近高値・安値を切り下げた場合や下降トレンド中に直近高値・安値を切り上げた場合など、トレンドが転換したと判断したときは、利食いのタイミングとなります。 - 目標地点まで到達した時
ピラミッティングでは、最初にポジションを取った時点で設定した利確目標に達したところで決済するのも一般的な手法のひとつです。
損切り
ピラミッティングの損切りは、以下のようなタイミングで行いましょう。
- 初回エントリー時に設定した損切りラインに到達した時
最初にポジションを建てる段階で、トレンド転換が起きたと判断できる位置(直近高値・安値の切り上げ・切り下げなど)に損切りラインを置き、その損切りラインに到達した時は、損切りを行いましょう。 - 撤退ラインの定期的な見直し
ピラミッディングでポジションが積み重なってくると、平均取得価格が変わってくるため損益分岐点も変わります。
そのため、損失許容額以上の損失が発生しない場所に、撤退ラインとしての損切りを常におく必要があります。
定期的に見直した撤退ラインに達した場合は、損切りを行いましょう。
なお、撤退ラインの位置は、損失許容額ギリギリの場所でなくても、トレンド転換と判断できる位置などに置けば、損切りを浅くすることができたり、状況によっては利食いで終わることもできます。
ピラミッティングまとめ
ピラミッティングは、うまく活用すれば利益を効率的に伸ばせる一方で、活用方法を誤れば損失が大きくなるリスクもあります。
そのため、相場環境の見極めとリスク管理が何より重要で、上級者向けの手法といえます。
「メリット・デメリット」や「活用方法」などを正しく理解したうえで、冷静に判断しながら活用していきましょう。
分割決済で利益とメンタル面の安定を両立させる
トレードにおいて「いつ利確するか」は非常に重要なテーマです。
その中で有効なもののひとつに「分割決済」という手法があります。
分割決済とは?
分割決済とは、保有しているポジションを複数回に分けて決済する方法で、「利益」と「メンタル面の安定」の両立を図ることができます。
分割決済のメリット・デメリット
分割決済には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
【メリット】
- 一部を先に利確し利益を確保できているので、メンタル面で安心感が得られる。
- 残りのポジションの利益を最大限伸ばせる可能性がある。
- 一部利確後、相場が反転しても利益を残せる可能性が比較的高い。
【デメリット】
- 一括決済より利益が減る可能性がある。
- 一括決済より判断回数が増え、やや難易度が高い。
分割決済の活用例
分割決済にはさまざまな活用方法があるため、ここでは一例を紹介します。

上図は、上昇トレンド中に分割決済を行った場合の例です。
まず、上昇トレンド中の一時的な下落である押し目で10Lotロングエントリーしています。
その後上昇していき、決済売り①のところで、直近高値を上抜けるかわからないため、その手前で5Lot決済売りをしています。
その後直近高値を上抜け、さらに上昇していきましたが、決済売り②の直近高値・安値を切り下げた局面で、上昇トレンドが終了した可能性があると判断して、残りの5Lotを決済売りしています。
なお、残りの5Lotの決済方法については、「トレール注文を使う方法」や「目標地点に到達したところで決済する」などさまざまな方法があります。
また、5Lotを一部決済した後、相場が下落してしまった場合も、エントリーポイント付近で残りの5Lotを決済すれば、多少の利益を残すことができます。
分割決済まとめ
分割決済は特に、トレンドフォロー型や中長期トレードにおいて効果を発揮します。
「確保すべきところは確保する」「伸ばせるところは伸ばす」このバランスによって、「利益」と「メンタル面の安定」の両立を図れるところが、分割決済の最大のメリットといえます。
時間軸の変更は資金管理の崩壊につながる
トレード戦略を立てるうえで、時間軸の選定は非常に重要な要素です。
たとえば、数秒~数分で完結する超短期取引は「スキャルピング」、数日~数週間の保有を前提とした取引は「スイングトレード」というように、時間軸によって戦略の組み立て方や求められるスキル、資金管理の方法は大きく異なります。
時間軸は、トレード戦略や利食い・損切りポイントなど、すべての土台になります。
たとえばスキャルピングを前提とするならば、狭い値幅で素早く利食い・損切りする設計であるべきです。
もし、スキャルピングを前提として決めた損切り基準に到達しているにもかかわらず、「損切りしたくない」という感情から、何かしらの理由を探して、時間軸を無理やり別の時間軸(スイングトレードなど)に変更した場合、本来許容すべきでなかった大きな損失が発生する可能性があり、非常に危険です。
このような「時間軸のズレ」は、資金管理の破綻と直結します。
なぜなら、その時間軸に合わせたポジションサイズや損切り基準が適用されていないからです。
「トレード前に決めた戦略と時間軸は、結果にかかわらず必ず守る」このルールを徹底することで、資金を守る土台が崩れず、長期的な成長につながります。
プロスペクト理論とは?
時間軸をずらして損失を回避しようとする行動には、人間の本能的な感情が強く影響しています。
それを説明するのが「プロスペクト理論」です。
この「プロスペクト理論」は、米国のダニエル・カーネマンらによって提唱され、行動ファイナンスや行動経済学と呼ばれる心理学の要素を応用した新たな経済学の分野を切り開いたとして、同氏は2002年のノーベル経済学賞を受賞しています。
プロスペクト理論によれば、「同じ金額の得と損があった場合、多くの人は損のほうを2倍以上大きく感じる」といわれています。
また、「人は利益はすぐ確定したがり、損失は先延ばししたがる」という傾向があるともいわれています。
この本能的な行動は、トレードにおいて極めて危険です。
「すぐに利確してしまって利益を伸ばせない」「損切りできず、損失が拡大する」、こうした行動が結果として資金を減らす原因となります。
だからこそ「どの時間軸で、どんな条件で利食い・損切りをするか」を事前に決めておくことが非常に重要です。
感情の影響をできる限り排除し、システムとしての資金管理ルールを確立することが、長期的な成功につながります。
【資金管理を徹底しよう】まとめ
資金管理は、トレードにおける「守り」の部分でありながら、継続的に利益を積み上げていくための「攻め」の土台でもあります。
相場に長く居続けるためには、テクニックや手法以上に、自分自身の資金をどう守るかという視点を常に持ち続けることが欠かせません。
- リスクを限定する。
- 感情に振り回されない。
- トータルで勝てる構造を作る。
この3つを常に意識して資金管理を徹底し、長期的に勝てるトレーダーを目指しましょう。

つねに資金管理を意識したトレードを心掛けましょう。